中勘助『飛鳥』に答える

私の胸の原っぱに
張られたひとつの霞網
飛ぶ鳥絡めて捕まえて
囀り聞かせてもらおうと
いとあさましき心根の
網に飛鳥はかかるまじ

 群青の空高くあの鳥もこの鳥も飛んでゆく。それぞれの声を出してうつくしい調べとともに渡る鳥たちをうち眺むる我が眼は高く、手は低く。その低い手で身近にいる羊の背を撫で、ともに鳥を見上げる。羊に鳥を捕る誤りを諭されて、枯葉、蜘蛛の巣、塵芥ばかりかかる網をたたみ、もしも鳥がきたならばそのとき食べてもらおうと魚を掬いに小川へ向かう。

雁、鶴、鴛鴦、燕
鷺、鷹、白鳥、浜千鳥
さてもとりどりあるなれば
魚食う鳥にとどまらじ
またも浅慮の勇み足
そもそも鳥は飛ぶものを
などか久しく留まろう
見よや行く鳥、渡る鳥
姿かたちもさまざまに
ただうつくしく過ぎてゆく

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