薄暮

図書館にいくときには、
だいたい地下の書庫に用事がありました。
既に引っ張ってくる対象が決まっていて、
探して見つけて取り出すだけです。

階段を降りたところから目標の棚までの途中にも
たくさんの本がつまっていました。
簡素ながら時間によって威容を与えられた棚が
わかりにくい秩序で並んでいました。
それらの隅になにかがいるような感じがして、
あるいは隠れ、あるいはこちらをうかがっているようなところもありました。
本というものの習性なのだろうかと考えていました。

よく通った通路のなかに『雲を掴む話』という本がありました。
中身をきちんと読んだことはありません。
幾度も列から抜き出してはさらさらめくって終わりにしました。
気象に関する学術の風味の強い本でした。
古い本だったという記憶の他には
出版年も、出版社も、著者も書影も何も覚えていません。
それでも未だに強い印象が残っています。

その図書館はもうなくなってしまったので、
あの本が今どこでどうなっているのかわかりません。


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