逍遥

映画を観に行ったので感想というものをやってみようと思います。感想を書くということが本当は苦手なのでこれまでろくにやったことがありません。それではなぜ今回やろうと思ったかというと、単にそういう気持ちになり、書くところがあるからです。果報者です。

 観たのは「ボヘミアン・ラプソディ」という映画です。これからその感想をものしますが、映画についてはほとんどまともに触れない予定です。ですからいわゆるネタバレの類はないかと思います。映画を観に行った感想であって、ちゃんとした映画の感想、ましてや批評や分析にはなりません。まとまりに欠けた考え事の並びで、概ね日記です。

○映画を観に行くということ
 あまり映画を観ません。1年で3本も観れば上出来です。それでも映画は好きです。今回もぼんやりと観たいと思っていて何もしないでいたのですが、わけもなく上映情報を調べたところとても音響の良いやり方で上映してくれるとあったのでそのまま座席を買いました。理由ができると行動が簡単になります。
 世の中にあるいろいろの用事の中でも映画に行くというのは特別の魅力があって、どういうわけだか知りませんがとても良いことをしている気になります。くじ引きの楽しみもあります。とにかく愉快な心持ちになります。

○観ている最中に思ったこと
 上にも書きましたが、今回観たのは「ボヘミアン・ラプソディ」という映画です。Queenについて、フレディ・マーキュリーについてろくな知識もなく、特に熱烈な気持ちもないのですが、いくつかの曲は知っていて、すごい人たちなのだろうとは思っていました。立派な設備で名曲を聴くとどうなるかという関心が強くありました。
 始まってすぐに感じたことは「音というのは本当に振動なんだな」でした。空間の震えを得て、文字通りの感動をしました。それだけで満足できました。
 それから物語が進んでいくわけですが、ほとんどなにも覚えていません。何を観たのか思い出せません。それでも観ながら思ったこととして「とてもかっこいいな」があります。ひたすらにかっこいいと思っていました。かっこいいまま終わるのかと感じていましたが、終盤になって「かっこいいだけなのか?」になりました。それで片付けるには足りない気がしました。そういうもやもやを得たところでエンドロールになりました。

○観たあとで思ったこと
 悔しいと思いました。自分にはあの映画の髄を楽しむのに必要なだけの知識と経験、つまり文脈が欠けていました。言っていることの核心が見えないまま強い感慨だけを浴びていたのでした。何か大切な部品が足りないまま過ぎてしまって、単にいいものを観たとしか言えなくなってしまったのです。悔しいので自分の持っているもので何とかしようとしました。本筋から離れている自覚のある考え事をここに残します。

○フレディは「いき」なのか
 九鬼周造は「運命によって〈諦め〉を得た〈媚態〉が〈意気地〉の自由に生きるのが〈いき〉である」と言います。フレディをかっこいいなあと思って観ているうちにこれは「いき」なのではないかと思いました。彼には「いき」を構成する要素が備わっている気がしたからです。本当にそうなのかどうかはもっとちゃんと考えないとわかりません。ただ、見終わったばかりの新鮮な記憶としてそういうものがあります。
 ひとまず彼が「いき」だとして、かっこいいだけなのかという疑問はおそらく「運命によって諦めを得た媚態」から来ています。それは別にかっこいいものではありません。そういうものはきびしいものです。諸手をあげて簡単に憧れていいものではないでしょう。それでも彼はやはり輝いています。ということはひょっとすると彼は「いき」なのではないかと思い至った次第です。これについてこれからも考え続けるかどうかはわかりません。
 ちがう方面から彼の煌めきについて見てみます。「いき」とあまり関係のなさそうな感想として「尋常でなく歪な人間が芸術と呼んで良さそうなものにのせて魂を削るとうつくしい」というのがあります。これについては未だ説明のしようがありません。

○自分はどうすれば良いか
 なんだかよくわからないけれどすごいものを観てしまって、半端な疑問や思いつきを得たところで考えたのは自分がこれからどうするかということでした。ひとつたしかに思ったのは、彼と同じことはできないし、したくないということです。追いかけてはいけないと警報が鳴りました。それで逆の方向に詰めるのはどうかとなります。華々しく、大きな声で、広いところで発揮するのでなく、ごく小さなところでひそやかに囁いてみるのはどうでしょうか。それで同程度のことはできないでしょうか。ひとつやってみようという気持ちになります。その気持ちを後になってから思い出せるようにこの文章を書きました。

 まったく方針を持たずにやり始めたのでこんなことになりました。無軌道もいいところです。しかしこれが今回の偽らざる感想なので、こうなりました。


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