余地

夏を拾いに行こうと思いました。
細かく言うと、そう思ったと考えたのは
すべて終わって家路についてからであって、
家を出る前は少しもそんなことは浮かんでおりませんでした。

天気が良いので駄菓子屋さんを訪ねたのです。
運転免許証も、保険証も、携帯電話も置き去りにして
半袖一枚になり半ズボンのポケットに200円だけ入れて出かけました。
そこにはかつての夏、少なくとも毎週通っていました。
学校が変わって、つまり生活が変わってから行かなくなりました。
よくわからない飲み物や得体のしれないお菓子を買わなくなって
何年も過ぎました。

すっぱり離れてから随分経つというのに
どこにあったのかを明瞭に覚えているのは不思議でした。
間違えようもなく駄菓子屋さんにたどり着いて見たものは
少し錆びたクリーム色のシャッターでした。
腰かけたベンチも、その陰に身を寄せた庇もなく
かえって記憶だけが濃くなりました。
ああ、ないのか、と思って、
それから無性に「ありがとうございました」と口の中で呟きました。

妙にすっきりした心持になって、
いろいろなことを思い出しながら帰りました。
それで何をしに行ったのかというと、
やっぱり夏を拾いに行ったのだと思います。

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