三枚

砂浜に行きました。
行きたいと思ったので行きました。

海はいつ見ても海です。
これから夏になるのだろうなという気持ちでいっぱいの空で、
立派な風が吹いていて海の気、磯の香、潮のにおいが
鼻から入ってきて脳を撫でまわしました。

夏にはこれからなるのであって、
まだ夏ではないので砂浜に夏のしるしは落ちていませんでした。
こわれたサンダルとか、果てた花火とかそういうものはなくて、
いつでも砂浜にある干からびた海藻や砂と波に磨かれた枝が
ちいさな集落となって点在しているのみでした。

出かけるときは常にポケットに入れている小銭入れがあります。
どういうわけでそんなことをしたのか説明できませんが、
小銭入れを砂の上に置いて少し離れて立ったまま観察しました。
およそ小銭入れには見えませんでした。
自分で置いたくせにいつからそこにあるのかわからない、
何かが変容した何らかに見えました。

しかしそれでも拾い上げられて砂を払われて掌中におさまったそれは
やっぱりいつもの小銭入れなのでした。

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