拡声

映画を観に行くことにして、
明日は映画に行くのだと思いながら床につくと
なんだかふわふわするようでお布団なんか被っていられませんでした。

知らない街の映画館に上映の一時間も前に到着して切符を買うと
自分以外には四席しか埋まっていませんでした。
切符も手に入れたのであとはなんにもやることがありません。
初めての土地でなんにもやることのない時間ができたときは
うろうろします。
どこに行くというあてもなく外に出ました。
折しもその日の太陽の最後のひとかけらが沈んでゆく頃合いで、
すべてが赤い金色を帯びた灰色になっていました。
そろそろ店じまいらしい果物屋さんも
どこかから出てきたと見える制服少女の群れも
そういう色をしていました。
少し歩いた先にあったコンビニから映画館に戻るころには
ついさっきまで残っていた光がなくなっていて、
買い物帰りの中年夫婦も
何をしているのかわからない格好のお兄さんも
電気の明かりの中にいました。

映画が終わったのは深夜のことでした。
ある種の邦画に特有の気怠さに感染したまま
水風呂じみた夜風にあたりながら帰宅して、
とてもだめな夜を過ごしたと思ってしみじみ満足しました。
あの日はすこし眠るのが難しかったです。

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